「牛乳」たったこの一言が、なんと心地よく響くことだろう。「温めた牛乳を一杯いかが?」いつだったかそんな誘いを最後にもらったとき、あなたはその人の心使いに心温まって感謝した。
食べ物全般についていえることだが、なかでも牛乳には、感情的かつ文化的な重要性がまとわりついている。乳は、私たちのまさに生まれて最初の食べ物であった。もしも幸運ならば、私たちは母乳を飲むことができた。母乳は、与え授けられる愛情のきずな、乳児が生き延びるための唯一の小道である。もしも母乳がなければ、牛乳か豆乳の人工乳が与えられた。あるいは、まれに山羊やラクダ、水牛の乳が与えられることもあった。
今や、私たちは乳飲国民である。ほとんど全員がそうである。幼児、子ども、未成年、成人そして高齢者までもが年間12ガロン、いや数百ガロンもの牛乳を飲む。のみならず、チーズ、バター、ヨーグルトといった大量の「乳製品」を摂取している。
それが何か問題なのですか? 繰り返しテレビ画面に現れる健康的で美しい人々の映像は、私たちに"牛乳は体によい"ことを確約し、安心させる。栄養士はこのように指導する。『牛乳を飲むように。そうしなかったら、どこからカルシウムを摂取するのですか?』学校給食には例外なく牛乳が含まれているし、ほとんどすべての病院の食事には牛乳が加えられる。それでもまだ十分でないとばかりに栄養士は、乳製品が"基礎的食品群"であることをずっといい続けてきた。業界の広報担当者は、牛乳やそのほかの基礎的な栄養素の必要性を表した色とりどりの図表を確実に学校でただで利用できるようにした。そして牛乳は、"普通"になった。
あなたはこれを聞けば驚くかもしれないが、今日地球上に生きる人々の大半は牛乳を飲まない、あるいは利用しない。さらにいえば、彼らは牛乳を飲むことができない。なぜなら、彼らは牛乳を飲むと病気になるからである。
大人が乳を利用することに懐疑的な立場を採る人類栄養学者の卵たちがいる。以下は、「Utne Reade」1991年3・4月号からの引用である。
もしもあなたが本当に安全策を採りたいのならば、近年急増している食事から乳製品を一切除去することを実践しているアメリカ人の仲間入りをするとよいだろう。牛乳と五大栄養要群が頭にこびりついている人たちには過激に聞こえるけれども、これはきわめて実行可能な策である。そうなのだ。すべての哺乳類のなかで人だけが、といっても少数派であり、なかんずく主にコーカサス人が、乳児期をすぎても乳を飲み続ける。
だれが正しいのか? どうしてこのように混乱するか? 私たちは乳業界の広報担当者のいうことを信じてよいのか? あなたはそのほかの業界であれば、その広報担当者のいうことを信じられるのか? 以前の栄養士も現在の栄養士も、ただ単に何年も前に教わったことを繰り返しているのか? では、用心を喚起する新しい意見については?
私が思うに、信頼できる情報源は三つある。一つ目は、これが最も信頼できると思うが、自然界についての研究である。二つ目は、自らの種族の歴史を調べてみることである。そして最後は、乳に関してこれまでの科学研究の文献をくまなくあたってみることである。
まず、科学文献を見てみよう。1988年から1993年までに「医学」アーカイブズのなかに記録された乳に関する文献は、二千七百件以上ある。このなかで、主に乳に焦点を当てたものが千五百件ある。ただしこのなかには、科学的情報をまったく欠いたものもある。そこでもういちど見直して、そのうちの五百件については、動物に極端に偏っている、非科学的な調査である、結論が導ききれていないとして除外した。
私がどのように文献をまとめたのか? それらの文献群は、ほとんど背筋が凍るようなものだった。第一に、だれ一人として私たちが乳業界に信じ込まされているような認識、すなはち牛乳は優良食品で、副作用もなく、完全食品であると主張する研究者はいなかった。発表された文献が主に焦点を当てているのは、仙痛、腸の炎症、腸からの出血、貧血、乳幼児のアレルギー反応、それからサルモネラといった感染症であるようだった。もっと不吉なのは、牛白血病ウイルス感染症もしくはエイズウイルスに似た細菌性感染症、それから小児糖尿病への懸念である。血液や白血球(膿)による乳の汚染、のみならずさまざまな化学物質や殺虫剤の混入についても論じられていた。子どもに見られる症状は、中耳炎、扁桃腺炎、寝汗、喘� ��、腸からの出血、腹痛、小児糖尿病である。大人に見られる症状は、心臓病、関節炎、アレルギー、鼻炎により集中しているようであり、もっと深刻な例では白血病、リンパ腫、がんへの疑いもあった。
答えを見つけるには、自然界において何が起きているのか、野生の哺乳動物に何が起きているのか、"狩猟採取人"のように自然に近い状態で暮らしている人に何が起きているのかを考察すべきであろう。
旧石器時代の私たちの祖先は、このテーマとは別の重要かつ興味深い研究対象である。彼らについては間接的な物証ゆえに考察が限定されるが、研究に利用できる骨の遺物は驚くべきものだ。疑いようもなくそれら骨の遺物が明らかにしているのは、強靭さ、筋力(筋肉の差込の大きさが表す)、骨粗しょう症の完璧なる欠如である。もしもこうした旧石器人類の研究をあまり重要でないと思われるなら、考えてほしい。今日の私たちの遺伝子は、五万年前から十万年前の祖先とほぼそっくりそのままに人体の仕様を決定していることを。
乳とは何か?
乳は、母親が授乳するさいの分泌物であり、新生児のための短期間の栄養分である。それ以上でもなく、それ以下でもない。普遍的にいかなる哺乳動物の母親も、出産直後から短期間授乳を始める。そして"離乳する"時期が来ると、赤ちゃんはその動物に適した食べ物を食べるように導かれる。よく見られる例は、子犬の母親である。母犬はたった数週間子犬に乳を与え、それから子犬を拒絶して硬い食べ物を食べるように教える。授乳という行為は、哺乳動物の赤ちゃんにのみ自然が与えるものである。もちろん、自然の状態で生きている動物が離乳後に乳を飲み続けることはできない。
すべての乳は安全なのか?
では私たちはどこから乳を得るのか、という問題がある。私たちが牛乳に落ち着いたのは、牛の従順な性質、その大きさ、そして豊富な供給量ゆえである。ともかくもその選択は"普通"であって、自然なもので、私たちの文化風習に調和しているように見える。しかし本当にそれは自然なのだろうか? ほかの哺乳動物の乳を飲むことは賢明な選択だろうか?
ちょっと立ち止まって考えてみよう。かりに牛以外の哺乳動物の乳を飲むことができるとして、ではネズミの乳はどうだろう? まあ、たぶん犬の乳の方がましだろう。馬の乳や猫の乳もある。あなたはこうした考えを受け入れることができるだろうか? このことについてこれ以上掘り下げないが、これだけは指摘しておきたい。すなはち、母乳は乳児のためのものであり、母犬の乳は子犬のためのものであり、母牛の乳は子牛のためのものであり、母猫の乳は子猫のためのものである云々・・・ということである。明らかに、これが自然が意図していることである。あなた自身の頭で判断されるとよかろう。
乳は単に乳にあらず。あらゆる哺乳動物の乳は唯一無比で、特別にその種に適している。例えば牛乳は、母乳に比べて蛋白質がずっと豊富で二倍から三倍多い。ミネラル成分は、五倍から七倍多い。しかしながら牛乳は、母乳に比べて必須脂肪酸が著しく欠けている。母乳には必須脂肪酸、とりわけリノール脂肪酸が六倍から十倍多く含まれている。偶然にもスキムミルクにはリノール脂肪酸がまったく含まれていない。ということで、牛乳は人が飲むために作られていないのである。
食べ物は単に食べ物にあらず。乳は単に乳にあらず。乳は単に適切な量の食べ物ではなく、健康と成長のためにまさに最善の成分を厳格に含んだ適切な質的構成分なのである。生化学者と生理学者、またまれに医者も、食べ物に含まれる成分は、特定の動物をその種属固有の存在に発達させるために厳格に規定されたものであることを徐々に学びつつある。
私たちが自らの種族の特徴を備えた存在に発達するには、神経を高度に発達させ神経筋肉を繊細に制御させなくてはならないことは明らかにである。私たちは、牛のようにがっしりと発達した骨格や巨大な筋肉群を必要としない。人間の手に求められるものと、牛の蹄に求められるものの違い考えてみるとよい。新生児が特に要求するのは、脳と脊髄・脊椎神経を発達させるための正しい栄養分である。
母乳に知能を増進する作用があるのだろうか? 実際、そのように見える。1992年「ランセット」に驚くべき研究が発表された。英国の研究者らは幼児を二つのグル−プに分けた。一つ目のグループには適切な人工乳が与えられ、もう一つのグループには母乳が与えられた。人工乳、母乳どちらとも胃管を通じて与えられた。幼児はその後十年以上にわたって追跡調査された。知能テストを行うと、母乳で育てられた子どものIQが平均で10点高かったのである。 どうしてなのか? どうして、急成長と脳の発達のために正しく作られた構成物が効果的な作用をもたらさなかったのか?
1982年発刊の「全米臨床栄養ジャーナル」のなかで、ラルフ・ホールマンは乳児が静脈点滴だけで養われている最中に重い神経系疾患にかかった例を紹介した。与えられた点滴液は、必須脂肪酸の一つリノール脂肪酸だけが含まれていた。別のアルファリノール脂肪酸を点滴に加えたところ、神経系の病状は消え去った。
その五年後、ノルウェイで働いていたジャブ・モスタドとトレセンによって、長期間胃管を通じて栄養摂取している成人にまったく同じ病気が見られることが同誌上に発表された。1930年ミネソタ州のG・O・バール博士が、ラットの実験によってリノール脂肪酸欠乏が欠乏症状群を発症させることを突きとめた。なぜ、そういえるのか? 1960年代初頭、小児科医らは同じくリノール脂肪酸が欠けた人工乳を与えられた乳児が皮膚裂傷を発症するのを発見した。人工乳に脂肪酸を加えたら病気が治ったという調査報告があったが、必須脂肪酸がそれであり、牛乳は母乳に比べてこれが著しく欠けている。
しかし、少なくとも牛乳は純粋だ
うーん、そうかって? 五十年前、牛乳の生産量は年間平均一頭当たり二千ポンドであった。今日、生産量の優れた牛はなんと五万ポンド生産する。いったいどうやってこんなことが達成できたのか? 薬物、抗生物質、ホルモン、促成飼育、特殊化された繁殖。だからである。
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