2012年6月3日日曜日

子宮内膜症の手術


手術療法

保存手術(子宮、卵巣を温存する):基本的に、手術でおこなうのは子宮内膜症の病巣を取り除くことです。また、高周波で子宮内膜症病巣を凝固したり腹腔内を洗浄し妊孕性の向上を期待する場合もあります。月経痛の治療目的で仙骨子宮靭帯を切断することがありますが、子宮内膜症ではあまり有用でないと言われています。卵巣チョコレート嚢胞に対しては、嚢腫の核出、高周波で焼灼などがおこなわれています。

根治手術:子宮と卵巣を全摘します。子宮内膜症病巣が遺残した場合、約10%(卵巣を温存した場合には50-60%以上)に骨盤痛が残ることがあると言われています。最近では欧米の腹腔鏡術者は子宮と子宮内膜症病巣を切除し、卵巣は正常であれば温存しているようです。

最近では保存手術、根治手術ともに腹腔鏡下手術で行われることが多く、開腹されることは非常に少なくなっています。

どんな手術ですか?

不妊症治療のために手術するのか、痛みを取り除くための手術をするのか、卵巣腫瘍(卵巣チョコレート嚢胞)を治療するのかで手術に対する基本的な方針がことなってきます。

不妊症に対しては、癒着の剥離し再癒着を予防する処置を行います。子宮内膜症をできるだけ切除するか、焼灼、蒸散の処置が行われます。ある程度残ってしまっても腹腔内を十分洗浄してマクロファージや炎症性の物質を洗い流してしまえば、術後1年くらいは自然妊娠が期待できます。卵巣嚢腫を取り除くのが主目的(たとえば腫瘤が大きいときなど)で痛みの症状がなければ骨盤壁の子宮内膜症は無理に切除する必要はありません。卵巣腫瘍のみを切除して終わることが多くなります。月経痛、慢性骨盤痛の治療として腹腔鏡下手術をする場合には、できるだけ子宮内膜症を切除することが必要になります。

2012年6月1日金曜日

抗うつ薬の歴史とセロトニン仮説


抗うつ薬の歴史とセロトニン仮説

うつ病のセロトニン仮説と抗うつ薬の薬理機序

抗うつ薬の項目で説明したように、抗うつ薬には、三環系抗うつ薬・四環系抗うつ薬・SSRI(選択的セロトニン再取込阻害薬)・SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取込阻害薬)・MAO阻害薬などの種類があります。憂鬱感や気分の落ち込み、不安感を改善する抗うつ薬の作用機序は、脳内のセロトニン・レベルやノルアドレナリン・レベルによって精神状態や気分の高低が決定されるという脳内モノアミン仮説(アミン仮説)を前提としています。つまり、脳内の神経細胞(ニューロン)終末と他の神経細胞終末との間にあるシナプス間隙において、セロトニン(5-HT)やノルアドレナリン、ドーパミンといった神経伝達物質(情報伝達物質)の分泌・受容が行われるというのがモノアミン仮説です。

脳内の情報伝達物質の交換によって精神活動が営まれるというモノアミン仮説(セロトニン仮説)を前提とすると、不快で苦痛な精神症状(抑うつ感・不安感・パニック・強迫観念)を治療したり予防する為には、脳内の情報伝達物質の分量をコントロールすれば良いという考えに行き着きます。モノアミンの一種であるセロトニン(5-HT)は、人間の脳幹に近い縫線核の細胞内で産生されて、ニューロンの末端まで運搬されシナプス小胞に貯蔵されます。シナプス小胞に貯蔵されたセロトニンは、脳内の情報交換を行う時に微弱電流(インパルス)の電気刺激(神経興奮)によって、シナプス間隙に放出されます。シナプス間隙に放出されたセロトニンの一部は、セロトニントランスポーターという部位に再び吸収さ れるのですがこの現象を「再取込」といいます。パキシルやルボックス、ジェイゾロフトなどSSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor:選択的セロトニン再取込阻害薬)に分類される薬剤は、このセロトニントランスポーターに特異的(選択的)に結合して再取込を阻害することで、うつ病の気分や感情の障害を改善するとされています。

脳内の化学的な情報伝達の結果、シナプス間隙に存在するセロトニン(鎮静系の化学物質)やノルアドレナリン(賦活系の化学物質)の分量が過度に少なくなると精神運動制止(精神運動抑制)が起きて、抑うつ感や億劫感、焦燥感、不安感といったうつ病の心身症状が発症してくると考えられています。セロトニンが不足した場合とノルアドレナリンが不足した場合との症状や問題の区別について明瞭な基準は存在しませんが、モノアミン仮説の理論モデルでは鎮静系の精神作用を持つセロトニンが不足すると不安感や焦燥感、パニックなどの不安中核症状が発現しやすいと考えられています。反対に、賦活系の作用を及ぼすのではないかと推測されているノルアドレナリンの分量が不足すると、抑うつ感や億劫感、倦怠感(無気力)な� ��の精神運動制止の症状が発現しやすくなると考えられています。しかし、精神疾患の病態や経過、あるいは患者の主訴や悩みからセロトニン系とノルアドレナリン系のどちらの神経伝達が障害されているのかを特定するような事は、現段階の医学技術や理論水準では不可能です。